光の道抗争をめぐって、ソフトバンクの孫社長と経済学者の池田氏の見解が対立しています。……対立しているように見えますが、実際には議論はかみ合っていません。
孫社長は
・携帯電話屋としては無線技術でやりたいがどんなに技術革新をして思い通りに周波数を使用しても今後予想される通信量をまかなえるものではない。
・現在はメタル線と光線で二重にコストがかかっているアクセス回線を全部光にすればコストの削減になる
・さらに今後田舎のメタル線が耐用寿命を迎えて修繕が必要になる
・そのコスト削減分と修繕費用を考慮すればメタル線を計画的に全て光にすることで相対的に交換コストはまかなえる
・その上、隅々まで光にして家庭用の引き込み部に無線機器をつければ無線のサービスも提供できる
・アクセス回線については一社が全ての会社に同条件で提供、電話会社などはその回線上で競争することで、競争は担保できる。
と主張しています。
これに対して池田氏は
・アクセス回線にも競争が必要であるから有線と無線のプラットフォーム競争がいる
・無駄な所得再分配につながるので全国に光ファイバーを張り巡らせる必要はない
という2点から反論しています。
一見するとちゃんと反論しているようですが、まったく持って議論がかみ合っていません。
まず前者について、孫社長は「携帯電話などでは通信量が持たない。光ファイバー経由の通信を確立してそちらへ逃がす必要がある」と主張しているわけです。そこで光ケーブルに無線機器を付属させて家庭内やそこから至近の通信はそちらへ逃げるようにしたらいいという話をしているわけです。つまり、どんなに使える周波数が増えても無線だけでネットワークを組むのは通信量が収納しきれないので光ファイバーを日本全国に張り巡らせた上で無線と有線の競争をしたらいいというのが孫社長の主張で、池田氏は「どんなに使える周波数が増えても無線だけでネットワークを組むのは通信量が収納しきれない」という点に対して回答していません。池田氏はこの点について数字の論拠を持って明確な反論をして欲しいと思います。
次に後者ですが、この主張はすなわち「地方に住んでいるほうが悪いのだから高速インターネットなどが都市圏以外で使える必要はない」ということになります。これも議論がかみ合っていません。現時点で20年以上経たメタル線が既に引かれていてそろそろ交換が必要になるのでそれをメタルのまま保全するのではなく光にしてしまえばいいというのが孫社長の主張です。池田氏の意見だと壊れた場合に修復したければ本人の自己負担でやらせればいい、払えないなら電話を取っ払え、ということになります。そうなると基幹線が故障した場合でも自己負担となりかねないわけです。都会人にとって耳障りのいいことを言うばかりではなく、そうしたケースでは誰がどのように負担するのか、という点について明示がなければならないはずですが、その点には一切回答していません。
日本の学者に良くあることですが、総じて池田氏の意見は具体的な対応策に欠けています。私のような素人でも「この辺への回答がないような」と判ってしまうような意見なのは残念です。ぜひとももっと明確な対応策をあげて反論して欲しいところです。